触れた指先が。

ほんの少しの熱が、ゆるゆると伝播し始める頃には。

頬を撫でていた手が首の後ろを捕らえ、いつの間にか息が絡み合うほどに近付いた唇にくちづけられた。







‥ ‥  Strawberry Touch  ‥ ‥







始めは上唇から。

味わうような甘噛みの後に、その感覚を次は舌が丁寧になぞっていく。
ことさらゆっくりとした愛撫の間に、呼吸のために浮かせた唇から熱と唾液が混じりこむと、瞬間、激しい眩暈を感じて、相手の服に縋りついた。
上唇を堪能した後、僅かな隙間から口内に侵入されると、頭の奥、どこからか、霞がかかったように意識が温み出し、ずるずると力が抜け落ちた身体は、腰に回された腕で支えられていた。

「………っ……ん」
口中を、意志を持って蠢く舌の熱が歯列と歯茎に触れ、勿体をつけるように内壁を辿り、舌に触れた時には、もう自分の力で立っていることが出来なくなっていた。両袖に引っ掛けた指には力が入らず、そんな自分を笑うように小さな震えが走る。

なぶるようにたっぷりと口内を味わった次は、放って置かれていた舌が捕まる。
嚥下しきれなかった唾液が喉を伝って落ち、その感覚に肌が粟立った。

絡めた舌に、逃げられないような柔らかい甘噛みが施され、角度を変えて、強弱をつけて、たっぷりと解す。

とろんと意識が落ちそうになる直前、最後に下唇を甘く愛撫して、呆気なくくちづけは終わる。

しばしの間、余韻を味わうように。舌に残る痺れをやり過ごすように。
瞳を閉じたテルは、微動だにせずに呼吸が収まるまで待った。


がくがくと。震えている唇と指先と、みっともない心臓。

いつの間にこんな風に触れ合うようになったのか、潔癖な完全主義の男は想像以上に手管も心得ていたらしい。
震える唇を諌めるように噛み締めて、深呼吸しながら北見を見上げた。

劣情の入り込む余地などない潔癖を装う、何よりも凶暴で悪戯な唇。その奥に潜む魔物のような舌をうっかり思い出して、ぱっと顔に朱が上る。


「それで?」
「………へ?」

紅く染まった頬への指摘はなかったが、むしろ、より面倒な選択をされたことに気付かないテルは、北見の問いに間抜け面を晒した。


「キスして欲しい。
 それだけか?」


台詞だけ聞くと、大層な譲歩が窺えるように受け取れるにも関わらず、いかんせん首すら傾げぬ溜息がついたお陰で、妙に高圧的な物言いになってしまうことを、北見はあえて直そうとはしない。

それもあってか、テルはたっぷり三十秒間、ぽかんと阿呆のように口を開いて北見を眺めていたのだが、やっと言葉の意味を理解するや、さきほどとは違った意味で真っ赤に頬を紅潮させて怒鳴った。


「そっ!
 そっ、そ、そんなこと、誰が言ったよ!
 アンタが勝手に――!」

ストレートな怒りの感情とともに、トーンを上げ始めるテルの声が悲鳴に変わる寸前。
するりと伸びた北見の指先がその唇に触れた途端、テルの悲鳴が面白いほどぴたりと収まった。

指の平がゆるりとした動きで唇の輪郭をなぞる感覚に、電流のような震えが足元から一気に駆け上がった。
自然と喉を鳴らす姿に、北見はくっと口元を歪めて笑う。


「そんな顔しておいて?」


どくん、と一際高く、大きく打った鼓動が、熱を帯びた身体を震せた。

口から飛び出てしまいそうだとは良く言った。

内側からくる拍動は、鎮めようとすればするほど激しく打ち、喉を震わせ、視界を滲ませる。
もう、いっそ飛び出てしまった方が楽になれるんじゃないかと、テルは自分の白衣の襟をぎゅっと掴んだ。
その指さえも震えて力が入らない。

息をするのもままならなくなってきて、テルが薄く口を開くと、押し当てられたままの指の平が僅かに浮いた。

「……………もっ………」
「 ”も” 、?」

肺から押し出す息と一緒に、微かに混じった声を、北見は聞き逃さなかった。指を口元から離して、肌を辿って顎に触れさせる。
顎を持ち上げるように四本の指を添え、瞳を細めて首を傾けた。
その瞳に僅か、情欲の色が入り込んだことを、テルの敏感な感覚が認めた。



「も……っいっかい、………」



喘ぐ声に、それでいい、と満足気に答えた北見を見ていられなくて目を閉じると同時、覆いかぶさってくる口付けを受けながら、テルは、キスひとつで思い通りにされてしまう自分を呪いながら、それ以上に、自分の全ては、この男に支配されている、と胸中でひとりごちていた。








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長めと言うか、描写の入ったちっすシーンを
書きたかっただけなので、オチが見つかりません。

求められるのは北見なんだけど、そう仕向けているのは北見だから、
どっちも北見が悪いと言うはなし。