嘘つき

ジタンの手は器用だ。
骨太なレオンの物とは全く違う。節ばっているが長い指。
それが随分器用に動くことをレオンは知っている。
今はすっかり形を潜めてしまったが、自らを盗賊だと名乗っていた当時の彼はとにかく油断のならない相手だった。気を配っていてもすぐに何かに手を伸ばされ、したり顔のジタンに苦い思いをさせられたのは一度や二度ではない。
ジタンはその手癖の悪さもさることながら、人の隙を計るのが本当に上手い。
レオンですら気づかない、ほんの一瞬の内に懐に入り込むことに長けていて、反対に気配も姿も何もなかったように消すこともできた。他人とは一定の距離を保とうとするレオンは、その気紛れな性格に酷くいらつかされたし、振り回された。
それがいつの頃からだろう。
二人の間に確かな絆が築かれると、彼が、誰よりも人の視線や言動を尊重していることに気付いた。同時に、一番近い所にいる自分への他人行儀な遠慮がなくなっていたことにも。
ジタンとの関係で変に緊張することはなくなり、それどころかとても居心地のよい場所に変化した。ジタンは、レオンにとって誰よりも近い位置にいて、誰よりも大切な存在になっていた。
そうして憚ることなく彼に触れるようになって気づいたこと。
手は、ジタンにとって特別なものらしい。
人にはその手で気安く触れるくせに、彼は自らの手を他人に預けることは絶対にしなかった。
だからグローブをとったジタンの素手を撫でることが出来るのはレオンだけだったが、それすら、普段は隠れている尻尾に触れるよりもずっと時間がかかった。
あの器用に動く長い指を捕まえて、撫でる。
最初こそ驚いてすぐに引っ込められた手は、もう今はレオンの掌中に静かに納まっている。
「やっぱり商売道具だからかなぁー」
それを指摘した時、ジタンはぼやいた。
利き手をレオンのしたいようにさせたまま、過去ではない何かに思いを馳せる目で。
いつだったか、子ども達に手品を披露していたことがあった。
すぐ近くで見ていたレオンでさえも、魔法のように現れるカードや数々のビー玉に感嘆を漏らし、小さなジタンはキラキラした眼差しでそんな奇跡を見上げていたものだった。
手の平の裏に隠したカードのように。空の手にビー玉があると見せかけるように。
彼の嘘吐きな指は、どんな痛みも巧みに隠してしまう。
一人ではとても抱えきれないような傷すら握り締めて、誰の目にも触れないように隠してしまう。
堅く閉ざされた手を開かせて、隠してしまおうとする痛みを暴いて、指を絡めて繋ぐ。
随分と時間がかかったものの、レオンには彼の手を開く権利が与えられた。レオン自身が、抱えた傷や悩みをジタンに隠さなくなったからだ。
そうして今、ジタンはレオンと手を繋ぎたがり、躊躇いも迷いもなくなった手で小さな二つの手を守る。
なぜなら、ジタンの手は痛みを抱えるだけの寂しいものではなくなったからだ。
小さな命を愛し、育み、導いて行く。そしてレオンとも共に歩むために彼と手を繋ぐ。
ジタンがレオンと手を繋ぐのは、レオンに嘘をつかなくなったこと。
痛みを共有しようとしていること。
絡む指先から伝わる体温で、親愛を伝えようとしていること。
その全てを理解して、レオンはジタンの手を強く強く握り返すのだ…

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