三人目

陽が南中を目指し始めた時刻、未だテントで寝そべっているジタンが身じろぐ。レオンはその下で胸を貸して敷物になった不自由な態勢だったが、不満もなさそうにただ彼の眠りを守っていた。

と言うのも、イミテーションの攻撃を避け損ねたジタンが左腕を骨折したのは前日のことで、傷自体は魔法で癒したものの、続く痛みと疲労で昨晩は長く寝付けずにいた。浅い眠りを繰り返しては目覚めるジタンの肩を、何度も宥めて寝付かせたレオンもそれは同じことだったが。

ようやく落ち着いてきたジタンの寝息に安堵の溜息を漏らす。
彼の分の食事を取りに行くべく身体を起こそうとしたレオンは、すぐ外に小さな気配に気づいた。

テントの前でもじもじと中を窺うそれが誰のものかはすぐ分かった。

「入ってきていいぞ」
胸元で眠るジタンを起こさないよう配慮して声を投げると、躊躇いがちにテントの入り口が僅かに開かれる。同時に差し込んできた朝日の眩しさに、レオンは眉を顰めた。

「……」
光を阻むように覗き込んでくる小さな頭。
逆光で見えないが、戸惑いの気配でどんな顔をしているか分かる。

「……ジタン、大丈夫…?」
弱々しい声は、果たして気後れかジタンへの気遣いか。テントの中には入ってこようとしないスコールの後ろで、小さなジタンの輝く金髪が不安げに揺れるのが見えた。

「やっと寝付いたから、もう大丈夫だ」

子どもは「よかった」と独りごちた後もまだ何か言いたげに佇んでいたが、レオンが問いただす前に慌てた様子で「じゃあ、外にいる」と逃げ出した。
スコールに手を引っ張られたジタンが名残惜しそうな眼差しをレオンに向けていたことは見逃さなかった。

「………」

ああ、と、あの視線の意味を悟る。
最近子ども達に構ってやれなかった上、昨日のジタンの大怪我に気後れして「構って」と言うたった一言すら飲み込んだのだろう。
自分達の立場や状況が分かっているからこそ、一番近い大人である自分達にしか甘えようとしない子ども達に寂しい思いをさせてしまった。

この際ジタンは寝かせておいて、今日は一日子ども達に構ってやろうと、レオンは床から抜け出す。

気を配ったつもりだったが、背後のジタンがもぞりと動いた。自分に倣って起き出そうとしている。
「今日は寝ていろ」

「………」

左腕を庇いながら起こした頭を振ってジタンは拒否した。

「……お前、なにすんの?
ちび達の相手だろ」

そうだ、と頷く。だからその間お前はゆっくり休んでいろと言うのだが、嫌だ起きると聞かない。
すっかり形を潜めていたが、時々酷く聞き分けが悪くなる癖は今も健在のようだ。
レオンはどうして寝かしつけたものかと思案する。

「ジタン」

語調を強めに名前を呼ぶと、ジタンは顔を上げた。疲れとも眠さともつかない微妙な表情で見上げられたが、それよりもその目に見覚えを感じた。

寝てろと繰り返すと、彼は表情を一層複雑なものに変える。

「ここで……お前がいないのに、一人で寝てろって言うのかよ」

「…………」

呆れて声も出ないとはこの事だ。

この病み上がりの頑固な大人と、それを気遣って遊んで欲しい気持ちを我慢した子ども、両方のジタンの目がそっくり同じであったことにレオンは細長い溜息を吐き出す。

無言の非難の眼差しすら、三人目の子どもになったジタンには通用しない。

「無理はするなよ……」

結局のところ。
そのどちらのジタンにも弱いレオンの答は一つしかなかったわけだが。

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